備忘録「清算型遺言による相続登記」

現在手続き中の案件で、清算型遺言を用いた相続登記を扱う機会があったので、記録しておきます。

 清算型遺言による手続きとは、遺言執行人が被相続人の財産を換価換金し、相続人に金銭を授受させるものです。具体的な手続きとしては、昭和45年10月5日民事甲4160局長回答にて記されており、まず遺言執行者が法定相続による登記を申請し、その後買受人と遺言執行者との間で売買を原因とする登記を申請するというものです。
 これは遺贈又は相続人複数に異なる割合で相続させたいのであれば、利用するメリットがあるため理解できるのですが、本案件においては特定の相続人に相続させるものになっていました。つまり、普通に遺言によって相続人Aに相続させ、その後相続人A自ら売買すれば何の問題もないわけです。
 しかし本案件では、遺言執行者(相続人Aが指名されている)が法定相続分の相続登記を行い、その後Aが買主と共同で不動産の売買による所有権移転登記を申請するという、わけのわからない状況の登記をしろとなっているわけです。
 公証人が相続ではなく、第三者への遺贈と勘違いしてこうなったのではないかと思いますが、登記を申請する分には、相続人全員の戸籍が必要になる分手間が増えますし、不動産を売買した後の譲渡所得税を各相続人に支払わなければなりません。
 本案件とは何ら関係はありませんが、東京地裁平成21年10月16日の判例では、「処分行政庁が遺言執行者が行った換価分割による遺産分割を却下する処分は適法である」とした事例がありました。この判例によると、換価分割を指定するのであれば、「遺言者の有する財産の全部を換価し、(中略)遺言の執行に関する費用を控除した残金を、次の通りに分配する」などのように明示する必要があり、この判例では上記記載がなかったため、却下されたようです。
 本件のように、公証人が作成した公正証書遺言であろうと不備があることはあり得ますので、遺言作成の際には、専門家である司法書士に一度ご相談していただけたらと思います。